【発達障害】「ありのままでいい」。発達障害のピアニストが、否定と諦めの日々を抜け出した「気づき」とは
なぜ、あすかさんのピアノを聞くと、やさしい気持ちになるのか?
みなさんに、ぜひ知ってほしいピアニストがいます。
それは、野田あすかさんというピアニストです。
あすかさんのピアノ曲が大好きな私は、彼女がつくり、魂を込めて弾いた曲を、日本中の人びとに聞いてほしいと願っています。
なぜなら、彼女の曲は、聞いた人をやさしい気持ちにさせてくれるからです。
1982年生まれのあすかさんは、4歳のとき音楽教室に通いはじめ、ピアニストの道を志しました。
やがて憧れの宮崎大学に進みましたが、人間関係のストレスからたびたびパニックを起こして中退。
その後、宮崎学園短期大学音楽科の長期履修生になりました。
そこで出会ったのが恩師・田中幸子先生です。
田中先生はあすかさんと出会い、次のように言葉をかけました。
「あなたはあなたのままでいい」
この一言をきっかけに、あすかさんは自分の心を音楽で表現することができるようになり、ピアニストとしての才能を大きく花開かせるようになります。
あすかさんのように、幼い時からピアノを始め、音楽大学で学び、プロのピアニストになった人は大勢います。
けれども私は、他のピアニストよりもあすかさんに、強く惹きつけられます。
なぜなら、彼女は先生の一言をきっかけにある「気づき」を得たからです。
では、「あなたはあなたのままでいい」という先生の一言は、あすかさんにどんな気づきをもたらしたのでしょうか。
実は、この気づきの意味を知ると、心がホッとし、やさしい気持ちにもなれるのです。
そのわけをみなさんに知っていただくために、まず、野田あすかさんのこれまでをお話ししましょう。
発達障害のピアニストから学ぶ大切な「気づき」とは?
ご存じの方も少なくないと思いますが、野田あすかさんは、ある障害を抱えたピアニストです。
その障害は長いこと障害とはわからず、ようやく20歳すぎに確定したのは、「広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)」という診断でした。
現在の用語では「自閉症スペクトラム障害」と呼ばれる障害です。
あすかさんは、いつもニコニコとても明るい女性です。
(中略)
たいへん素直で、何事にものびのびしている、とても素敵な女の子なのです。
あすかさんの地元・宮崎で私が講演した時、彼女は楽屋を訪ねてくれました。
私の大好物をきれいにラッピングし、「たらみゼリー、おいしいよ」と手紙つきで差し入れてくれたのです。
私のブログを読んで好きと知ったのでしょう。
あすかさんのなかで、繊細なやさしさが大きく育っているんだな、と私はうれしく受け取りました。
というのは、自閉症スペクトラム障害は、人の気持ちを「わかる」ことがとても難しい障害なのです。
「自分(の世界)と他人(の世界)の境界がはっきりしない」という言い方もあります。
この障害のある人は、相手の事情を勘案(かんあん)したり、気持ちを忖度(そんたく)したりするのが苦手で、人とコミュニケーションがうまくとれません。
そんな障害を抱えながら、あすかさんは、私という相手について、あれこれ真剣に思案し、喜びそうなことを見つけ、包み紙や手紙にも工夫を凝らしている。
このことが、プレゼントや文面から、ひしひしと伝わってきました。
彼女が苦手なこと、つまり自分の障害を、なんとか乗り越えようと努力する姿は、とても感動的です。
この努力は、あすかさんにとってとてもよいことだ、と私は思っています。
みなさんは、誰だって相手が喜びそうなことを考えるのは当たり前では、と思われるかもしれませんね。
でも、自閉症スペクトラム障害は生やさしい障害ではありません。
ぱっと見ただけではふつうの人と変わらないように見えても、みんなが当たり前にできることが、当たり前のようにはできないのです。
人間の脳には、人の気持ちや考えをわかる(学ぶことができる)領域があります。
そして、多くの人は生まれつき自然に人の気持ちがわかるようになり、それに従って行動し、生活しています。
たとえば、子は親の言葉や態度を見て「おかあさんは、こう思っているんだ」とわかって、それに沿った言動をふつうにやっています。
ところが、自閉症スペクトラム障害の人は生まれつき、その脳の領域が小さいか、または機能が低いことを示すデータがあります。
なぜ、そうなるのか、理由ははっきりわかっていません。
ただし、親の育て方など後天的な影響によるものではない、といまの研究者たちは考えています。
また、自閉症スペクトラム障害を持つ方には、苦手なことがたくさんあります。
たとえば学校で「校庭の草むしりをしましょう」と言われると、ずっと草むしりをしてしまいます。
障害のないお子さんなら、チャイムがなれば草むしりを止めます。
でも、自閉症スペクトラム障害を持つお子さんは、「いつ」止めればいいのか、教えてもらわなければわからないことがあります。
こうした場合、周囲の大人は、生まれつきの障害と知らないため、なぜ、チャイムがなったのに教室に戻らないのかと子どもを叱ってしまいます。
しかし、本人は、なぜ言われたとおりやったのに叱られるのか、理解できません。
しかも、クラスの友達が「私だけが知らないルール」を知っているように感じて、さみしい思いをしているかもしれません。
誰一人としてあすかさんが自閉症スペクトラム障害と知らない(その言葉すら世界にまだ存在しない)なか、八方ふさがりの彼女は、いじめにあい、不登校、転校、退学、自傷行為などを繰り返し、実に壮絶な少女時代を送りました。
どんなに苦しかったでしょう。
胸が締めつけられるように感じます。
それでも、成績のよかったあすかさんは、第一志望の宮崎大学に現役で入りました。
しかし、これで本格的にピアノや音楽を学べると思ったのもつかの間、人間関係のストレスから、しばしばパニックに見舞われるようになります。
いくつかのコンクールで受賞するなど、地元で名の知られるピアニストになっていた彼女は、声楽やフルートなどの伴奏をよく頼まれました。
複数のことを同時にこなすのが苦手ですから、依頼が重なるだけで苦しく、断ることも大きな苦痛です。
自閉症スペクトラム障害の人は、断った相手の反応がわからないので「相手がもし、ひどく怒ったらどうしよう」「いやな気持ちになったらどうしよう」と考えすぎてしまうのです。
こうして、がまんして依頼を受けすぎてしまうので、ストレスをどんどんため込んでしまいます。
あすかさんは、パニックになって過呼吸発作で倒れることが、よくありました。
倒れる頻度が1か月に1度、週に1度、2~3日に1度、と激しくなりました。
精神科を受診し、入退院を繰り返したあげく、2年の終わりで大学を中退することになってしまいました。
あすかさんは、憧れて入った大学で、ピアノも、音楽も、そして自分という人間さえも、完全に否定されてしまったと、大きなショックを受けました。
「ありのままでいい」と気づくと脳と心がラクになる
そんなあすかさんにとって、生き方や考え方を大きく変える出来事が二つありました。
一つは、「広汎性発達障害」という診断が確定したことです。
診断にいちばんホッとしたのは、あすかさん自身でした。
ご両親は発達障害と聞いて「もう治らないのか」と愕然とし、診断を受け入れ難かったのです。
でも彼女は穏やかな顔で、自ら進んで「障害者手帳がほしい」と言い、障害を受け入れました。
誰でもみんな階段を上ることができますね。
でも、仮に大殿筋(骨盤から大腿骨につく、おしりの丸みをつくる大きな筋肉)が生まれつき育たない子がいたら、その子は階段を上ることができません。
ほかの筋肉を総動員して、はって上るしかないでしょう。
そして、みんなが上れる階段を上れないのは怠けているから、と筋肉が育たないことを知らない人は責めます。
そして自分でも自分を責めてしまいます。
そこに「あなたは、必要な筋肉が生まれつきないから階段を上れない。あなたが悪いわけじゃないんだ」と気づかせてくれたのが、発達障害という診断だったのです。
もう一つは、大学を中退して1年以上ピアノから遠ざかったあと、宮崎学園短大音楽科に長期履修生として通うことになり、そこで田中幸子先生と出会ったことです。田中先生は、あすかさんに、こう言いました。
「あなたの(ピアノの)音は、いい音ね。あなたは、あなたの音のままでとても素敵よ。あなたは、あなたのままでいいの!」
あすかさんは、この言葉を「救いの光のような、すごくびっくりする考え方」と振り返っています。
「これはダメ」「あれもダメ」と否定され続け、自分を否定し、諦めることしか考えられなかったあすかさんを、田中先生が初めて否定せず、「ありのままでいい」と言ってくれたのです。
これこそ、あすかさんにとっての「福音」で、人生の大きなターニングポイントでした。
彼女はこの言葉で認められ、その後の大きな自信につながりました。
あすかさんの心が潰れてしまうか。
それとも、あすかさんがよいところを伸ばして成長できるか。
その分岐点が、この時だったのだと思います。
「私は私の気持ちを知らないけど、ピアノはいつも、私の心をわかってくれて、私の『こころの音』を出してくれる。みんなと同じことができずに苦しい時、ピアノが『きみのままでいいよ』って教えてくれて、いつも元気をくれるのです」
これは、あすかさん自身の言葉です。
自閉症スペクトラム障害のあすかさんは、自分の気持ちを知ることが苦手です。
あすかさんは自分の弾くピアノが、いま悲しい音を出していることはわかります。
ある時、こんなことがあったそうです。
通っている生活支援センターであすかさんのことを「いつもニコニコしていてムカつく」と怒って、つかみかかろうとした人がいました。
彼女は、その出来事を覚えていません。
いやな気持ちだったとか、悲しかったという自覚もありません。
でも、ピアノを弾くと、悲しい音が出ている。
あすかさんは、時々、なんで自分のピアノが悲しい音がするのかを知るために、生活支援センターの人に「今日1日何があったのか」をメールで聞くそうです。
そして、何があったのかを教えてもらい、ピアノが出す自分の「こころの音」と向きあい、いまの自分の心の状態を知るといいます。
さてはじめに、みなさんに「あなたはあなたのままでいい」という言葉がもたらす「気づき」について知ってほしいと書きました。
ここまで読んでくださったみなさんは、もうおわかりでしょう。
「あなたは、あなたのままでいいの!」という田中先生の言葉。
「きみのままでいいよ」と教えてくれるピアノの音。
どちらも「ありのままでいいんだ」と、あすかさんが気づくことをそっと促しています。
彼女はこの気づきで救われ、否定と諦めの日々から抜け出すきっかけをつかみました。
ピアノを弾き音楽をつくることが、どんどん好きになっていき、2006年に宮日音楽コンクールでグランプリに輝いたのを皮切りに、ピアニスト・作曲家としての才能がどんどん開花していったのです。
このことは、私たちに、とても大切なことを教えています。
「ありのままでいい」と気づいているか、どうか。
これは、いまを生きる日本人すべてにとって切実な問題です。
https://mainichigahakken.net/health/article/post-2431.php 毎日が発見ネットから引用
エナベルで就労移行支援を受けています、ウサギのTです。
私も申し訳ない事に知らなかった野田あすかさんというピアニスト。
発達障害を抱えかなり苦労されて、憧れの大学憧れて入った大学で、ピアノも、音楽も、そして自分という人間さえも、
完全に否定されてしまったと、大きなショックを受け中退。
生き方や考え方を大きく変える出来事が二つ。
一つは、「広汎性発達障害」という診断が確定したことで、あすかさんが障害を受け入れた事。
もう一つは宮崎学園短大音楽科に長期履修生として通うことになり、そこで田中幸子先生と出会ったことです。
この先生との出会いが彼女を変えていくことになるんですね。人との出会いはこんなにも人を変えるんですね…。
そこでたった一つの気づきで彼女は大きく変わり、ピアニストとしても女性としても素敵な方になっていると思います。
痛みをわかる人だからこその優しさも加わって、その音色は優しく響くのでしょう。
一度聴いてみたいですね。