【4070問題】所得税を1円も納めたことのない人が年金を受け取る…心配です
高齢化するひきこもり支援は文化です。地域の実情に根ざした、オリジナルでオーダーメイドのモデルを作るべき – 「賢人論。」第65回斎藤環氏(中編)
1986年に筑波大学医学専門学群を卒業した斎藤環氏は、不登校児の研究で知られる故・稲村博助教授の研究室に入局し、診察という形で、後に「ひきこもり」と呼ばれることになる多くの青年たちと出会う。以来、斎藤氏にとって、ひきこもり研究は30年来のライフワークとなった。『「ひきこもり」救出マニュアル』(PHP研究所)、『ひきこもり文化論』(紀伊國屋書店)、『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(中央法規出版)など、多くのひきこもり関連書を発表してきた斎藤氏に、ひきこもりの最新事情と、その高齢化の問題を聞いた。
取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人
https://blogos.com/article/308007/
所得税を1円も納めたことのない人が年金を受け取る…心配です
みんなの介護 ひきこもりに関連して、斎藤さんは「2030年問題」に警鐘を鳴らしています。2030年問題とはどういうものでしょうか?
斎藤 先ほど、ひきこもりの平均年齢は37歳だと言いましたが、一定のボリュームゾーンを形成するひきこもり第1世代が、今、50歳台を迎えています。ひきこもりの子どもを世話している親御さんは、わが子の将来を考え、子どもの分の国民年金保険料を支払っているケースが多い。すると2030年には、少なくとも数万人いると思われるひきこもり第1世代の人々が65歳に達し、年金受給資格を獲得します。そのとき、私たちの社会が彼らに対してどんなリアクションをとるのか、私としてはとても心配です。
というのも、公的年金の財源の半分は所得税でまかなわれているから。一方、ひきこもりの多くは就業経験がゼロなので、所得税を納付したことがありません。つまり、所得税を1円も納めたことのない人が、所得税を財源(の一部)とする国民年金を受け取ることになるわけです。
そのとき、彼らはフリーライダーと見なされ、社会からバッシングを受けるおそれが大いにあります。あるいは、バッシングをおそれた人は年金受給を諦め、孤独死する道を選ぶかもしれない…。もちろん、彼らの親御さんは彼らの分の年金保険料を納めていますが、それが充当されるのは年金受給額の半分だけ。もう半分は、結局誰かの納めた税金で補充されることになるわけです。
フリーライダー論は今すでに出ていますし、「ひきこもりは自業自得論者」も多数いるでしょう。そうして彼らに社会復帰の芽を閉ざすことは、逆に行き場のなくなった彼らによる社会の負担、治安の悪化などとして顕在化していく事だと思います。
誤解を恐れず言ってしまえば、高齢化する引きこもり問題は、日本における新たな障害者問題として、行政も市民も真剣に向き合うべき時代になっているのだと思います。