【引きこもり】引きこもり経験者が教壇に立つ、不思議な「ひきこもり大学」の秘密

引きこもり当事者の思いから生まれたアイデア「ひきこもり大学」がこのほど本になった。

ひきこもり大学とは、ひきこもった本人らが自らの意思で講師となって、親や応援者などに向けて自分の経験や知恵、見識などを講義するという、従来の上下関係が逆転する不思議なキャンパスだ。

同書では、大学の特別講義として、引きこもり経験者だけでなく、メディアやサポート側の立場、家族会など、「ひきこもり」に関わった執筆者たちがそれぞれ多様な立場から、自分自身のことなどを綴っている。これらの執筆者を人選したのは、ひきこもり大学の発案者で、自らも経験者である学長(ニックネーム「寅さん」)だ。

この1冊には、コロナ禍で外に出られなくても、「ひきこもり」について、講師の生の声を勉強できる教科書にしてもらいたいという寅学長の思いが凝縮されている。そんな「ひきこもり」学ともいえる多様な価値観に触れた読者もまた、それぞれの気づきを得られるに違いない。

 

引きこもり経験者が発案した「ひきこもり大学」

ひきこもり大学は、当連載でも以前に取り上げてきた通り、元々引きこもり経験者である寅学長の発案で、2013年に生まれたアイデアの1つ。2カ月に1度開かれている『ひきこもりフューチャーセッション「庵-IORI-」』の運営ミーティングで、「親の会などに行くと、親たちから『どうやって出てきたの?』『周囲にどうしてもらいたかった?』などの質問責めに遭う。それなら、聞きたいことがある人に来てもらって、当事者が親に授業したらいい」という寅学長のアイデアを聞き、周囲のファシリテーターが「授業を行うのだから、ひきこもり大学だね」とネーミングされ、実現化したものだ。

寅学長によれば、ひきこもり大学とは基本的に引きこもり当事者が講師になり、家族やサポーター、一般の人たちが生徒になって、引きこもり経験や知見を学ぶ場。生徒が勉強になると思ったら、講師への気持ちを寄付金箱に投げ銭してもらう。

引きこもっている人たちは外に出たいと思っても、一般の人が想像する以上に公共交通費が高く、家から出てくるだけでも金銭的な負担が大きい。
そこで、せめて「交通費くらいの費用は参加者に負担してもらえるといいな」という引きこもり当事者ならではの思いが、発想の根源にある。

また、「引きこもり」といっても、広く状態像を示すもので、それぞれの当事者が抱える生きづらさの状況はさまざまだ。
そこで講師を務める人が、話したい趣旨に基づいて自由に学部や学科名をネーミングできるのも大きな特徴だ。

同書を書き上げるまでには、企画の開始から4年間かかったという。

そもそものきっかけは15年11月、寅学長の元に出版の話が持ち掛けられたことだ。
各地で開催してきた「ひきこもり大学全国キャラバン」(KHJ全国ひきこもり家族会連合会主催)の講師たちが一堂に会した「全国ひきこもり交流会」の評判を聞いてのことだった。

「最初はあまり乗り気ではなくて、断ろうと思っていたんですけど…。支援する側とされる側の立場が逆転したら面白いなと考えていただけなんですが、時代って変わるんですね」(寅学長)

引きこもり当事者たちの生の声を伝えられるのなら最高のチャンスだとは思いつつ、なかなか形にならない日々が続いたが、コロナ禍の時代になって花開いた。

 

ひきこもり大学に「命がけ」でやって来る

寅学長は、こう話す。

「今、イベントとかできないじゃないですか。この本を読んでおいてくださいって言えば、みんな読んでくれる」

いわば、コロナ禍の“教科書”だ。

ひきこもり大学は、単なる体験発表の場ではない。講師になる引きこもり当事者たちが自らの意思で、支援者のフィルターを通さずに、自由に発信することを大事にしているからだ。

寅学長は、書籍の中の第1時限目「開学メッセージ」でこう書いている。

「自分の体験を人に話すことは意味があるのだということに、大学をやってみて初めて気づきました。
それが特別な経験であればあるほど、価値あるものになります。その経験に人はお金を払うのだということがわかったのです」

人と違う経験をしたことに価値はある。
不登校や引きこもりなど、普通とは違う生き方をネガティブだと思っていた体験を、対価を払ってもらえる価値あるものに変える。
ひきこもり大学はそういうメッセージを発信し、講師の経験が本人たちの成長にもつながる場だったのだ。

寅学長は、周囲に応援してくれる人たちが少しずつ増えてきて、意識が変わってきたことを実感するという。
SNSやネットで全国に発信できるようになった影響も大きい。

「口コミで遠くから、閉じこもっていた本人が(ひきこもり大学や庵などに)命がけで来るのを見ると、どれだけ思いが強いのかと思う。
親は『動けない子』だと思っているけれど、本人は自分の思いに共鳴してくれる場があれば潜在的なエネルギーを発揮する。親にはそれが分からない」(寅学長)

「第2時限目」のマスコミ学部ジャーナリズム学科に登壇するフリージャーナリストの有馬知子さんは、まだ共同通信社に在職していた13年当時、マスメディアで最初に「ひきこもり大学」の名前を全国に発信した記者だ。

 

ひきこもり大学の副学長は「外こもり」経験者

俯瞰的な目線から「ひきこもり」当事者への取材を通して感じたことを綴る有馬さんは、「支援者が当事者を助けるという従来型の関係性を、当事者が教師になることで逆転させる発想が新しかった」と紹介する。

その上で、「さまざまな角度から『ひきこもり」を語らせそうな『大学』という名称にも可能性を感じた」

「発案者の寅さんには当時、いろんなことに対する怒りがあったのではないでしょうか」と振り返る。

「第3時限目」の外ごもり学部ライフスタイル・シフト学科に登壇するライフ・スタイリストの河面乃浬子副学長は、中学時代にいじめを受けたが、親に相談するどころか家には自分の居場所がなかったという「外こもり」経験者だ。スタイリストをしながらも日本社会に生きづらさを感じ、12年間ニューヨークに移り住んで外こもった。

乃浬子副学長は、これまでのすべての経験を生かして、内面と外見の双方向から自己受容を喚起し、自尊心を復活するための「ライフスタイル・シフト」を提唱。これまでのすべての経験を進化させて、よりフラットに人生を応援する場である「自尊心Wake up!ひきこもりライフシフト」を開催中だ。今後は、引きこもり本人だけでなく、親や兄弟姉妹など、家族がそれぞれの人生を受け取って生きやすくなるためのプロジェクトを続々と発信していく予定だ。

「親たちもこんなことを思っているんだという苦労を知ることは、勉強になる。
親も、特別な経験をしたという意味では、間違いなく当事者であり、経験や解決策を話すことは、価値になります。
親にも講師になってもらいたいと思っています」(寅学長)

ひきこもり大学はこれまで内々に開かれてきて、公の場には出ていないものの、「引きこもり先生は、レジェンドが多い」と、寅学長は話す。
そして今後、「ひきこもり大学」という名称が、「ひきこもり本人も、親も、支援者も、その他の人も、みんなが学べる対話の場」になることを夢見ている。

https://diamond.jp/articles/-/251304 DIAMOND onlineより引用

 

エナベルで就労移行支援を受けています、ウサギのTです。

引きこもり当事者が講師となって、親や支援者、一般の人に引きこもりのことを語る…「引きこもり大学」。

立場逆転の大学ですね。実際当事者じゃないとわからないことたくさんありますからね、こういうのは必要だと思います。

不登校や引きこもりなど、普通とは違う生き方をネガティブだと思っていた体験を、対価を払ってもらえる価値あるものに変える…

それだけで大きな意味がありますね。遠方からわざわざ命がけでくるのもわかる気がします。

本人は自分の思いに共鳴してくれる場があれば潜在的なエネルギーを発揮する…親のわからない引きこもり当事者のパワー。

それを引き出せているこの大学は凄いと思います。

今後、この大学はどうなっていくんでしょうね。学長の想い、描くように進んでいけたら素敵ですね。

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