【引きこもり】「引き出し屋」に頼った両親 突然428日間の地獄にとらわれた息子「なぜ話してくれなかったの‥‥」

[「独り」をつないで ひきこもりの像](30) 連れ出されて(1)

「父さんと会うのは428日、母さんは429日ぶりだ」。
10月下旬。久しぶりに沖縄本島内の実家に戻ったサトルさん(21)=仮名=が両親を見つめた。
ひきこもりからの自立支援をうたう民間業者に、神奈川県内の全寮制施設へといきなり連れ出された“あの日”以来の再会。
「引き出し屋を頼る前に、なぜ相談だけでもしてくれなかったの」。突然、日常を奪われた恐怖、怒り、悲しみが今もサトルさんの心を縛り続ける。

「東京からお客さんが来たよ」。
20歳の誕生日を目前に迎えた昨年8月15日昼。
いつものようにリビングのソファでスマホをいじっていると、父テツヤさん=仮名=に声を掛けられた。
「東京?」と疑問に思った、その瞬間。父と入れ替わりに、背の高い男性3人がどかどかと現れた。

「誰?警察ですか」。寝起きの頭を必死に働かせ、震える声で尋ねると「警察と協力し、ひきこもりの人たちを救う団体だ」と返ってきた。
「危ないものを持っていないか調べる」と、男性たちはサトルさんの部屋を探り出した。

「仕事もせず勉強もせず、親を困らせて恥ずかしくないか」。
1人に問われた。県内の進学高校を卒業後は進学や就労をせず、10カ月近く実家で戦闘ゲームなどをして過ごしていた。
「確かに、両親には負担を掛けている」と答えた。

すると「君には、ひきこもりの人たちが集団生活する施設に行ってもらう」と男性。
「え、いつから」と驚くと「今日。今すぐ向かう」と言われた。
「困ります。これからバイトとかします」「君に信用はない」-。押し問答は延々と続いた。

「僕は拒否します」。確かに、はっきり、伝えた。
だがサトルさんが未成年であることを理由に、男性は「親が許可した」の一点張り。
「警察と連携している証拠を」と求めたが「知る権利はない」と突っぱねられた。
サトルさんが逃げるのを警戒してか、リビングの出入り口には別の男性が立ちふさがっていた。

父さん、助けて-。
先ほどまでいた父の姿を探したが、見つからない。
極度の緊張状態の中、高圧的な態度で説得されること約2時間。
「拒否権がないなら、行くしかないのか」。次第に抵抗する気力が消えていった。
「この生活が変わるのなら」と答えるほかなかった。

玄関にはいつの間にか、日用品などが詰まったキャリーバッグが置いてあった。
昔から家にあるバッグ。やっと「自分の知らない間に、両親が全ての準備を整えたんだ」と悟った。

サトルさんが「地獄」と振り返る日々の始まりだった。
両親と再び会うまでの428日間で、90キロあったサトルさんの体重は30キロ減った。

 

■寮に到着「軟禁される」
突然やって来た男性3人に本島の実家から連れ出される直前。
サトルさん(21)=仮名=はスマホや運転免許証などの生活必需品を預けるよう促された。

一切の抵抗が許されない空気の中、せめてもの救いは、唯一友達と呼べるインターネット仲間に宛ててスマホからメッセージを送らせてくれたことだった。

〈しばらくみんなと話せなくなる。ごめん〉。
内容を確認されながら文字を打ち込んでいるうち、涙が頬を伝った。

チャイルドロックの掛かったレンタカーの後部座席に乗せられ、実家を離れる時も、この状況を知っているはずの両親は姿を見せなかった。
「お前のような子はいらない。捨てる、と突き付けられたようだった」

サトルさんは、その日のうちに空路で那覇から羽田へ飛んだ。
さらに車の移動を経て、連れていかれたのが神奈川県中井町にある全寮制施設「ワンステップスクール湘南校」だった。

「軟禁される」。そう直感した。
まず案内されたのは「考査エリア」と呼ばれる空間にある、テレビのない5~6畳ほどの個室。
廊下には小型カメラが設置され、エリアの扉は出入りのたびにブザーが鳴る。窓も、わずかしか開かなかった。

スマホは手元に戻らないまま、個室に食事配膳などをするスタッフ以外との関わりを絶って1週間過ごした。
エリアの外に出るのは、風呂など限られた時間だけ。1日に原稿用紙3枚分の「課題作文」をこなす以外することがない。
「1日が何十年にも感じ、ノイローゼ状態だった」。日がたつにつれ勝手に涙があふれ、誰にともなく「ごめんなさい」とつぶやき続けた。

「人間として扱われていないと感じた。知らない間に自分の人生が決められていく怖さに襲われた」

 

■涙ぐむ母「どうすれば」
「どうすればよかったの。こういう手段で家から送り出すしかなかった」。
約1年ぶりにサトルさんと対面した母のリョウコさん=仮名=は涙ぐむ。
戦闘ゲームに明け暮れて昼夜逆転し、ひきこもりがちな息子。「若いうちに何とかしなければ」と焦っていた。

時折、手が付けられなくなるほどの「暴言」にもおびえた。
夫と行政や病院の相談窓口を何カ所も回ったが解決せず、時間だけが過ぎた。
業者に依頼する決め手となったのは、自死願望をよく口にしたサトルさんの「20歳まで生きていない」という一言だった。

リョウコさんらは、入寮費など当面2カ月分の諸費用として、業者に計100万円を支払った。
3カ月目以降は月約20万円を納めることになっていた。
共働きとはいえ、経済的余裕はない。それでも、わらにもすがる思いだった。「この子の命を守ってください、お願いしますと」

(中略)

■本人との関係づくりが大前提
ひきこもりからの自立支援をうたう民間業者に自宅からいきなり連れ出されたとして、トラブルになったり訴訟に発展したりするケースが全国で相次いでいる。本人、依頼した親の双方から相談を受けるKHJ全国ひきこもり家族会連合会理事でジャーナリストの池上正樹さんは、こうした業者の利用に潜むリスクを指摘。
公的支援を頼れず、追い詰められて“即効薬”を求める家族の心境は理解しつつ「支援の入り口は、本人との丁寧な関係性づくりが大前提」と強調する。

池上さんは、親が業者を頼る背景に「ひきこもりへの公的機関の理解や連携が十分ではなく、本来あるべき支援が機能していない現実がある」と話す。

相談窓口をたらい回しされるなどして、疲弊した親には「ひきこもり解決」などをうたう業者が魅力的に映る一方、こうした民間業者に法的規制やガイドラインはなく、所管官庁はあいまいだ。一部には悪質な業者もおり、契約更新を重ねて費用が膨らむトラブルが多発。
消費者庁は注意を喚起している。悪質な業者に年1千万円を支払った親もおり、池上さんは「親は加害者でもあるが、被害者でもある」と言葉を選ぶ。

ひきこもりは、いじめやハラスメントなどで傷ついた自分を守るため「安全な場所」である自宅に一時退避する行為。
そこに知らない人が突然やって来るだけで、本人には脅威に映る。
さらに、そのまま居座って説得を続けるのは「暴力ともいえる」と池上さん。
自分の考えを伝えられず、断れずに結果的に連れ出されてしまう人は多い。
自ら命を絶ったり、親子関係の断絶に至ったりするケースを見てきたと振り返る。

疲弊した家族への支援と合わせ、必要なのはひきこもっている本人の心の内にある恐怖や不安を客観視する作業に、時間をかけて寄り添う第三者の存在だ。
「本人と親で、目指すゴールが違うことも多い。親の願いありきではなく、ひきこもっている本人の味方として動ける支援者をどう育成するかが地域社会に求められている」

人と関わり合いながら生きる以上、誰でもひきこもりになり得る。
本人は「少し休んでいただけ」のつもりでも、心配した家族が業者に依頼したケースもあったという。
池上さんは「誰にとっても身近な問題と捉えてほしい。本人の意に沿わない連れ出しや支援は人権問題だ」と強調する。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/676276p 沖縄タイムスから引用

 

エナベルで就労移行支援を受けています、ウサギのTです。

連れ出されるときの緊迫した感じと絶望が伝わってきますね。

よく耳にする「引き出しや」とはこんな感じなんですね…。

お母さんの切なる願いもわかりますけれど、これは…。

引きこもりにも今は公的な支援機関もありますし、いきなりこの引き出しやに頼るのはどうもいただけないですね。

本人の理解のないまま突然ですからね。トラブルや訴訟が起こっても仕方のない気がします。悪徳業者もいるといいますし。

引き出された当事者が自ら命を絶ったり、親子関係の断絶に至ったりするケースもあると引用先に書かれてますね。

誰でも引きこもりになるとも引用先にあります。

特別な事ではないんです。少し休みたい…と本人は思っているだけかもしれません。

確かに十年、二十年引きこもる例もありますから、一概に言えないのですが…

もう少しひきこもりへの公的機関の理解や連携があれば、あるべき支援が機能していれば防げる話ではありますね。

公的機関も支援が行きわたってないのもあるでしょうし、自分の子供が引きこもりというだけで、引け目を感じる親や家族がいるといいます…。

難しい問題ですが、こういう業者を頼る前に色々出来る事はないかともう一度考えてみて欲しいです。

 

 

Follow me!

  • X

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です