【エナベルの本棚】『壬生義士伝』浅田次郎

幕末の家族愛を描く浅田文学の最高傑作『壬生義士伝』

今は国民的作家と言っても良い浅田次郎。

その代表作は何かはいろいろ議論が分かれるかもしれませんが、私は『壬生義士伝』を挙げたいと思います。

基本的に浅田次郎はデビュー作である『プリズン・ホテル』から一貫して「愛」を描く作家だと思っています。難しい事はない、人が人を大切に思う気持ちである「愛」をいろいろな形で描いているのが浅田次郎という作家の本質だと思います。

そんな浅田次郎が幕末の新選組隊士で、「この二品家族へ」と血文字で刀と金銭を遺したというエピソードがのこっているだけの吉村貫一郎を主人公とした物語です。

吉村貫一郎は幕末の経済苦境と東北の飢饉の真っ只中の南部盛岡藩に生きて、愛する妻と子を養うために脱藩し、家族に送る金のために新選組に入ったという隊士として描かれます。

金に卑しい武士にあらざる者と蔑まれながら、家族のために戦い、家族のために生きようとし、最後に二品だけを遺した吉村貫一郎の生涯を、生き残った隊士たちの回想という形式で描かれます。

さのため最初は吉村貫一郎の人間像が曖昧にしか思えなかったものが、少しずついろいろな話を効くにつれ固まっていく様子など、ミステリー的な味わいもあり、浅田次郎の筆が冴え渡っています。

そして、最後にくる怒涛の感動の嵐は、これは読んでくれとしか言いようがありません。

ラストの漢文調の書き下し文は涙なくしては読めない。

映画化、ドラマ化、コミカライズなどされていますが、やはりこれは小説から最初に読むべきです! ぜひ、この感動を共有していただきたい。

幕末に興味がなくとも貫かれた「家族愛」の物語として、落涙必至の物語です。

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